2022年4月10日、少年ジャンプ+にて、藤本タツキさんが描いた200Pの読み切り漫画『さよなら絵梨』が公開された。
私は藤本タツキさんの大ファンとは言わないが、ファイアパンチやチェンソーマンは全巻持っている。
そして藤本タツキ作品と言えば、切っても切れない要素が「映画」である。
ファイアパンチのトガタは映画好きという設定だし、チェンソーマンのマキマも、デンジとのデートで1日中映画館をはしごして見るほどの映画好きだ。
そして本作では「映画」という題材を中心に物語が展開される。タツキ先生のこれまでの作風や創作論といったものが結集した、いわば集大成といった作品と言っても過言ではない。
本記事では「ファイアパンチ」「チェンソーマン」から読み取れるタツキ先生の映画愛にも触れつつ、「さよなら絵梨」の感想や考察について記述する。
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何とも言い難い面白さ
まずはこの作品に対する感想を述べたいのだが、言語化するのが非常に難しい。よくも悪くも面白いという一言に尽きる。
ネット評でもあったのだが、絵梨が言っていたこの台詞に集約されてしまう。
出典:さよなら絵梨(https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496858728104)
じわじわとつい何度も読み返したくなる面白さというのだろうか。
「スタンドバイミー」を観た後のような感じにも似ている。共感を呼び起こす感じの、じんわりとした面白さだ。
エンターテインメント的ではないものの、母親の件や爆発オチの件、ファンタジーをひとつまみなど、随所の台詞や展開をしっかり回収して完結させているところは見事である。
しかしそれは必然なのかも知れない。これが1つのフィルム(映画)として再編集され尽くされているものだとすれば、無駄なく構成されている点もメタ的な意味で納得のいくものだ。
どこからが現実でどこからがフィクションか、そんな考察はこの作品には全く不要だと思うし、作者もあまりカッチリ決めてないのではないか、というのが個人的見解だ。
絵梨が可愛い
出典:さよなら絵梨(https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496858728104)
ファイアパンチのトガタしかり、チェンソーマンのマキマさんしかり、タツキ先生の描くヒロインはどうしてこうも魅力的というか蠱惑的なのだろう。
爆発オチに話題がさらわれがちだが、タツキ先生は純粋に「絵梨」というキャラクターを描きたかったのではないだろうか、と勝手に推測する。
映画を観ている時の絵梨も可愛い。旅行中の絵梨も可愛い。個人的にはタツキ作品史上1番可愛い。この読み切りを読む価値は、絵梨というキャラクターを見るだけでも十分だと言える。
以下は、個人的にベストショットな絵梨だ。
出典:さよなら絵梨(https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496858728104)
やさぐれ間のある絵梨。可愛い。
出典:さよなら絵梨(https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496858728104)
絶妙な角度で色っぽい絵梨。タツキ先生の画力が上がっている気がする。
また本作は全コマが四角形で構成されているわけだが、そのコマの大小による表現が絶妙だ。
アプリ版だと片側1Pずつしか表示されないが、ブラウザ版であれば漫画のように左右両ページが表示された状態で読むことが出来る。おそらくタツキ先生は漫画で読むことを想定して描かれていると思うので、ぜひブラウザ版でも読んでみてほしい。見開きページのところが切れ目なく表示されて、また違った印象を抱くだろう。
映像に残すことの価値を説いている
「さよなら絵梨」は、ストレートに映像に残すことの大切さや価値を説いているように思えた。
作中で「思い出す」というキーワードがいくつも散りばめられている。
出典:さよなら絵梨(https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496858728104)
出典:さよなら絵梨(https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496858728104)
「優太は人をどんな風に思い出すか、自分で決める力がある」という印象的な優太の父の言葉。
昨今は手軽に映像を残せる時代となった。ゆえに、映像に残すことの価値そのものが軽んじられているようなところもある。
検索すれば何でも動画で観られてしまう時代だが、自分や大切な人の映像はやはり唯一無二なもの。
YouTubeを筆頭に動画や映画といった映像コンテンツがひしめき合っているこの時代、今一度、映像の真の価値やあり様を説いているようにも思えた。
出典:さよなら絵梨(https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496858728104)
ラストシーンへ向けて展開される過去の絵梨と現在の優太、そして過去の優太と現在の(蘇った)絵梨が描かれるこの構図、そして台詞もめちゃくちゃいい。
このワンシーンを描くために、198P肉付けしましたと言われても納得できる。最高。
映画好きヒロイン作品の集大成
冒頭でも述べた通り、私はこの「さよなら絵梨」は1つの集大成ではないかと思っている。
藤本タツキ先生の初連載作品となる「ファイアパンチ」では、本作のように映画に関する言及が「トガタ」というキャラクターを通してなされている。
「チェンソーマン」のマキマも、トガタほどではないものの、映画好きと読み取れる台詞や展開がなされている。
出典:ファイアパンチ(https://shonenjumpplus.com/episode/10833497643049550135)
そして「さよなら絵梨」は撮影されていることを表現するために、ほとんどが横長の長方形のコマで構成されているが、この表現はファイアパンチでも取り入れられていた。
出典:ファイアパンチ(https://shonenjumpplus.com/episode/10833497643049550135)
キャラクターを通して映画への愛情や魅力を伝えてきたタツキ先生だが、「さよなら絵梨」というタイトルの通り、タツキ先生の抱く映画への想いを作品やキャラクターに託すことは、これでさよなら=最後になるのではないかと勝手に推測する。
何せ、トガタ、マキマ、絵梨と映画好きのキャラクターが少々多くなってきた。ここらで決着をつけるために、この読み切りを書いたのではないだろうか。題材もストレートに映画であり、これ以上のアプローチもないように思える。
とは言え、個人的にはこういうキャラは大好きだし、映画も観たくなる&作中で触れられた作品には興味がわくので、今後もどんどん出して頂きたい。
そしてファイアパンチは一気読みするとかなり面白いので是非読んでほしい。トガタの映画愛も面白い。
作中で触れられた映画
出典:さよなら絵梨(https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496858728104)
最後に、作中で優太が言及した『パーマネント野ばら』、『ブラウンバニー』、『シックスセンス』を紹介する。
パーマネント野ばら
菅野美穂さん主演で2010年に制作された「パーマネント野ばら」。西原理恵子さんの漫画が原作となっている。
タイトルにもパーマネントとあるように、とある美容院を舞台に、様々な色恋沙汰が描かれるとのことだが、Googleのサジェストでは「狂ってる」などのワードが出てくる。イカれた幻覚の例えとして優太が1番に挙げた映画、一見全くそんな要素はなさそうなのだが……内容が気にかかるところ。
※本ページの情報は2022年4月時点のものです。最新の配信状況は各動画配信サービスの公式サイトにてご確認ください。
ブラウン・バニー
2003年にアメリカで制作された映画。
こちらもなかなかに過激な描写がある恋愛映画。この映画が挙げられた理由はおそらくその結末にある。
※本ページの情報は2022年4月時点のものです。最新の配信状況は各動画配信サービスの公式サイトにてご確認ください。
シックス・センス
言わずと知れた名作『シックス・センス』。
地味に作中でネタバレされているが、もはや誰もが知っているようなものなのでご愛敬……。
残念ながら現在配信されているサイトはないので、気になる方はレンタルを。
まとめ
私はこの作品を読んで、自分や大切な人の映像を残しておきたい、と思えた。
自分がどんな風に思い出してもらいたいか、大切な人をどのように映像に収めるか。
「最高の映画」はきっと自分にしか作れないのだ。
そんなわけで、ルックバックに続いて名作を送り出してくださったタツキ先生。
チェンソーマン第二部にも期待しています。たぶん、初っ端からやってくれると思います。
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